慢性的な痛み
コロナ禍以降、毎年オンラインでボディナミックの継続ワークショップが開催されています。
今回のワークショップは、「慢性的な痛み」がテーマです。
1日目の講義内容で印象に残ったことをまとめてご紹介します。
・外傷性ストレスを受けてから、3~6ヶ月で自己免疫疾患、2,3年後に身体的な痛みが生じる傾向がある。
・外傷後ストレスのみならず、生理学的な機能の問題も絡んでくる。
・線維筋痛症(fibromyalgia)はその一つである。
・身体的な痛みと心理的な痛みの区別はとてもつけにくい。身体的な痛みは心理的な痛みを引き起こすし、心理的な痛みは身体的な痛みを引き起こす。
・痛みがひどい時は、人に話しかけられても返事もできない。他者とコンタクトが持てなくなるし、他者に共感することもできなくなる。新しいスキルを取り入れることもできない。
・局所的ではなく、全身に広がる痛みは、死の恐怖を引き起こす。
・線維筋痛症は、まだ原因がわかっておらず、特異的な治療法もまだ見つかっていないため、長期的に経過し、ADLやQOLが低下しやすい。
(例えば、Treister-Goltzman Y, Peleg RFibromyalgia and mortality: a systematic review and meta-analysisRMD Open 2023;9:e003005. doi: 10.1136/rmdopen-2023-003005)
・痛みを感じる(=死の恐怖を感じる)ことへの恐れが強くなり、そのことで痛みの感受性が増し、さらに痛みを感じやすくなるという負のループが生じる。
・まずは、ビタミンやミネラルの摂取状況を確認する。ビタミンDを補うことで痛みが減る場合も。
・痛みをゼロにしようとすることを目指さないことが大切。痛みを減らしていくことを目標にする。
・スコアリングを行い、10→8、8→5と痛みの強さが減った何かを見つけて、それを生活の中に取り入れていくようにする。
・痛みとともに生きていくことを前提とした、新しい生活スキルを身につけるように支援する。(痛みが強くならないような生活スタイル、リズムを見つける、支援を求めるスキルを身につけるなど)
・痛みとともにでも、より良く生きていこうという希望をどのように持てるようにするかが大切。
・長い期間痛みを感じ続けていると、人によっては、痛みがある方が安心、安全だと感じるようになり、あれだけ苦痛だった痛みが減ると、かえって恐れが強くなることがある。痛みがある間は死の恐怖を感じ続け、痛みが減ってくると、今度は生きることへの恐怖が生まれてきて、恐れから抜けられなくなることがある。
・そのためには、恐れに出会う(気づき、感じる)ことが重要。本能レベルの恐れ(terror)ではなく、情動レベルの恐れ(fear)として。
・または、本能レベルの深い深い悲しみ(grief)を、情動レベルの悲しみ(sadness)として感じていくことが必要。それには、自分が失ったものを、失ったと認めて受け入れるプロセスが必要。何かを失うということは痛みが生じるということ。
講義の後、セラピストとしていかに存在するかという実習を行いました。
何かをしよう、問題を解決しようとしないで、ただそこにいること。
セラピストとしてできることはほとんどなく、最大限できることとして、痛みにまつわる苦痛な情動を感じるその方の傍にただ存在することだということは、とても深い教えだと思っています。