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恐怖麻痺反射とモロー反射

[2024.01.28]

神経発達症のお子さんには原始反射が残っていることが多い、とのことで発達支援の現場で原始反射統合のエクササイズが広く行われるようになってきており、受けておられる方も多いと思います。

反射のことを調べていた時、小児科の教科書には恐怖麻痺反射のことは載っていないのに、神経発達症の子どもたち向けの発達支援の本には、原始反射として恐怖麻痺反射が載っていることがずっと疑問で、どういうことなのか知りたいと思っていました。

最近、ようやくそのことが記載されている本を見つけました。

Sally Goddard Blythe(2023)  Reflexes, Movement, Learning & Behaviour   Analysing & unblocking neuro-motor immaturity    Hawthorn Press

それによると、驚愕反応には、3段階あることが書かれていました。

恐怖麻痺反射は胎内で出現し、本来なら胎内でモロー反射に移行するため、新生児にみられる原始反射として挙げられていなかったのだと思いました。

同書 48〜55ページ驚愕反応(恐怖麻痺反射、モロー反射、ストラウス反射)について読んでみました。

要点をまとめます。

1.恐怖麻痺反射は、胎児期に胎児が有害な刺激から逃れるために生じる逃避反応が元になって生じる

2.恐怖麻痺反射は、睡眠麻痺反射や潜水反射との関連があるかもしれない

3.過剰な逃避反応は、選択制緘黙、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、あがり症、自閉スペクトラム症、パニック発作や広場恐怖の症状の発現に関与しているかもしれない

3.モロー反射は、妊娠32週までに、恐怖麻痺反射を克服して生じる

4.モロー反射は自律神経のうち交感神経を活性化する

5.ストラウス反射は、生後4ヶ月ごろにモロー反射が抑制されると同時に出現する

6.極度の危険に晒された時に、休眠状態にあった、恐怖麻痺反射が活発になる

7.モロー反射が残っている人は、先に行動してから、あとで考える傾向がある

  (考えながら行動できない)

 

翻訳も試みてみましたので、参考にしていただけたら嬉しく思います。

驚愕のパターン(Startle patterns)

ストラウス反応(成人の驚愕反応)は生後4ヶ月ごろモロー反射が抑制されるころに発達します。赤ちゃんは筋肉を緊張させ、瞬き、感覚を用いて潜在的な危険の源がないか環境をスキャンし、どのように行動するか、皮質上の(意識的な)決断を行います。この成熟した驚愕反応は、以下のような3つの発達段階を完成させた結果みられるようになります。

 

逃避反応(Withdrawal reaction) 

逃避反応は、胚が、自らの身を守る手段を手に入れる前の最初期の驚愕反応の痕跡だと考えられています。

感覚-運動系の行動は誕生のずっと前から始まっています。まず、筋線維が神経系から分かれて発達します。妊娠7週半で、筋肉は、最初期の反射弓の形成を通して神経系の影響下に置かれます。(Gally and Foster 1987)

この段階の運動反応は、刺激を避ける、頭、首、体幹の粗い大きな動きです。反射弓が発達してくると、身体のより多くの部分が反応に加わってきます。これらの構造がより成熟すると、動きもより分化していきます。

妊娠13〜14週までに、胎児は刺激から離れるのではなく、頭と唇の動きで刺激に向かって向きを変えることができるようになります。

触覚刺激への反応を作り出す反射は、出生前、受精後5週から7週半の間に口のあたりで始まります。口腔顔面の皮膚反射は逃避反射によって特徴づけられます。この早期の粗い逃避は、後に、恐怖麻痺反射(Fear paralysis reflex)を含む、より複雑な反射と繋がっていると考えられます。

恐怖麻痺反射は、動物界全体に存在し、不動(immobility)、心拍数低下(slowing of the heart)、血圧の変化(change in blood pressure)、呼吸停止(cessation of breathing)、警戒心の強い皮質の状態(a highly alert cortical state)と極度の恐怖(extreme fear)によって特徴づけられる、即座のシャットダウンもしくはショック反応が生じる反射です。

同様の反応を、驚愕した時にあるポジションで凍りつき、脅威が去るまで動かずにいるうさぎのような動物に見ることができます。動物界では、獲物となる動物は不動や代謝活動の抑制で捕食者に見つけられるのを減らすことができます。(擬死)この反応は生存を助けますが、人間の社会的な状況、もしくは現代の技術的な世界では、効果的な適応反応ではありません。

Kaada(1986)によって表現された恐怖麻痺反射は、その起源が早期の逃避反応に由来すると仮説が立てられてきました。(Goddard 1989a;1989b) Kaadaは恐怖麻痺反射が哺乳類の潜水反射(diving reflex)と関連しているかもしれないことと、恐怖麻痺反射が活性化されている時に生じる脳の皮質電気活動は、レム睡眠や睡眠麻痺でみられる脳波に似ていることを提示しました。

レム睡眠として知られる逆説的睡眠は、その間に、脳幹からの神経インパルス活動のバーストや前脳や中脳での強い活動がある睡眠とは別個のフェーズのものです。それは夢見ること(ビジュアライゼーション)と目の筋肉と横隔膜を除いて、運動機能が欠如していることによって特徴づけられています。運動機能が欠けていることとそれに伴った筋肉の低緊張は恐らく、身体を使って夢の内容を演じることなく、夢の中を旅することを可能にするでしょう。

おねしょや夢遊病などの睡眠障害は、ノンレム睡眠か遅波睡眠(slow wave sleep)の間に起こります。

睡眠麻痺は、人がいくつかの睡眠段階を経ずに目覚めたときに生じます。単純に言うと、筋緊張が回復する前に、意識の脳は目覚めるために動くことができないのです。この状態は大抵の場合数秒続きますが、それは極度の恐怖を連想させます。Kaada(1986)は恐怖麻痺の誘導の特徴として、以下のものをあげています。

無力感や希望がない状態;利用できる解決方法がなく、動物が対処不可能な、逃げることができない、圧倒されるような状況に置かれる

潜水反射の活性化は即座に心拍数を低下させ(徐脈)、水の中に沈んでいる間、代謝のスピードを落とすことで動物を生かし、酸素を節約する生理的な保護メカニズムになると考えられています。そうやって、酸素が足りないことで生じる悪影響から脳を守ります。

Landsberg(1975)は、潜水反射は酸素節約メカニズムか、病態生理的な無呼吸反応の始まりが起こりうると提案しました。言い換えると、潜水反射が長く続きすぎると、致命的になります。KaadaはこれがSIDS(乳幼児突然死症候群)の重要な要素かもしれないと提案しました。

のちの人生で極端な状況で一時的に生命を守る機能を持つ、これらの反射と胚にみられる、早期の逃避反応との間の繋がりはまだ証明されていませんが、過剰な逃避反応は、多くの疾患の特徴の一つや、選択制緘黙、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、あがり症、自閉スペクトラム症、パニック発作や広場恐怖の症状の発現に関与しているかもしれません。PTSDにおいては、逃避反応は、トラウマの期間が過ぎたずっと後に環境的、心理的な出来事や記憶によって引き金を引かれ続けて起こり続ける先祖返りの反射が生じるような、極端な脅威と(または)絶望と無力が長く続く状況から生じる可能性があります。同様に、言語表現ができる前に極端なネグレクトや虐待を経験してきた子どもは、元のトラウマを想起させるような刺激や出来事に対して、恐怖麻痺反射で反応し続けるかもしれません。自閉スペクトラム症においては、一つかいくつかの感覚システムの過敏さが、触媒としてふるまっているかもしれません。パニック発作や広場恐怖は複数の理由で生じてますが、KaadaはKleinによって行われた観察と、彼の恐怖麻痺反射についての仕事を以下のようにつなげています。

恐怖麻痺のような、広場恐怖におけるパニック発作や成人のパニック障害と乳幼児突然死症候群(SIDS)は、ある部分で遺伝子的に決定されおり(Torgerson 1983)、生来埋め込まれた分離恐怖機制(separation fear mechanism)が放たれる閾値が低すぎることによって生じます。(Klein 1980)

これらの例では、環境的な引き金または記憶(即座の環境的な刺激も加わった)は、現実にまたは現在生命に危機が迫っていなかったとしても、深く根付いた凍りつきの反応を生じさせます。人質に取られる、拷問、投獄のように、極端に絶望と無力感が長く続く状況では、痛みを抑制するメカニズムの活性化にも関連する、恐怖麻痺反射を自発的に使うことは、現実から一時的に解離する物理的、心理的スペースを被害者に提供するのに役立つ可能性があります。この防御反応が発達しすぎると、元のトラウマが終わった後も長く回復を障害するかもしれません。言い換えると、脳にある認知的なセンターは回復したいと思っていても、身体は記憶を持っており、感情は不適応になった反応を引き出し続けます。

1990 年代に拷問とトラウマ回復のユニットで働くセラピストが INPP メソッドを模索したのは、まさにそのような状況でした。彼の仮説は、トラウマに応答して発達した反応を利用し続けるなら、認知的、心理的な方法だけでは回復をもたらすには不十分だというものです。身体ともワークすることも必要になるでしょう。

これが、早期の発達に当てはまるなら、反対向きのメカニズム、もしくは”それより優位に立つような”ものをインストールする必要があります。これがモロー反射の機能の一つのようです。逃避反応の特徴は、刺激から後退り、代謝を下げるのに対して、モロー反射は自律神経のうち、交感神経を活性化し、即座の覚醒を引き起こします。

十分に発達すると、モロー反射は、握りしめる、または抱きしめることが特徴的な反射(探索反射、吸啜反射、手掌、足底の把握反射)のグループに属します。それは徐々に発達し、2つの段階からなっています。最初の段階は受精後9週から12週で出現します。腕と脚が外側に向き(外転)、瞬間的に首が反って凍りつく(逃避反応)動きで成り立っています。出生後は、息を吸うことと覚醒することが伴って生じます。モロー反射の第2段階が発達するのは、腕と脚を閉じる(内転)こと、首を屈曲すること、生後は息を吐くことによって、逃避反応が克服される時です。(受胎後32週までに)完全なモロー反射が行われるには生後1ヶ月でその前の逃避反応を抑制し統合すること、また、そこまで脅威的でない驚愕の状態の時に、過剰な逃避反応を起こさないようにすることが必要になります。(Goddard 1989;1990)

より早期の反射が過活動の場合、理論上は、有害な刺激から身を守るよりもむしろ危険にさらすことになる、逆連鎖反応が生じることになります。逃避反応、モロー反射、成熟した驚愕(Strauss)反応は、連鎖反応の方向性を操作する潜在的な力を持っています。成熟した反応が完全に発達している時は、主要応答メカニズムとして働き、それゆえ、より原始的な反応が生じるのを防ぎます。言い換えると、より高度な、より適応的な防御システムのコントロール下に置かれます。しかしながら、モロー反射は、前庭刺激に過敏であり、ストラウス反応は、姿勢制御に関連するもっと成熟した反応と協調して生じます。理論上は、未成熟な姿勢制御は、​​​​​成熟した驚愕反応を弱め、バランスや姿勢の不安定化に対して、より原初的な驚愕反応を引き起こす可能性があります。

モロー反射(Moro reflex)

モロー反射は驚愕に対する原初的な過剰反応で、怒りや苦痛とともに、交感神経を刺激し、覚醒、心拍数増加、血圧の即時上昇、早くて浅い呼吸、顔が赤くなる、などを引き起こします。

ストラウス反射(Strauss reflex)

成人のストラウス反射は、姿勢制御の発達と並んで出現します。1929年にStraussが以下のように描写しました。

‥脚と体幹の屈曲、頭部前屈、肩が上がって前方に動く、腕が前方に上がって内側に向く、前腕の回内、手は握り、瞬き、しかめ面の顔、腹部の筋肉の屈曲

ストラウス反射は、生後4ヶ月ごろにモロー反射が抑制されるときに発達します。2つの反応が同時に存在することもありえます。要求される反応の皮質分析は成熟した驚愕パターンに関連していますが、モロー反射に特徴的なものではないと考えられています。それゆえ、モロー反射を持っている人は、最初に行動した後に、あとで考える傾向があります。成人ですら、全ての反応が潜在的に可能ですが、一度抑制されると、早期の反射は休眠状態に置かれ、極度の危険やひどい無力感や絶望感を感じる状況に置かれた時にのみ、活動します。

 

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