早産児と自閉スペクトラム症とボディナミック
最近、ボディナミックをもっとちゃんと教えられるようになりたいと思い、教わったことについて、そのことは具体的には何を意味しているのか、その根拠は何か、をより詳しく調べ始めています。
7つの発達段階のうち、最初の段階を存在(Existence)といい、「私はこの世界に存在する権利がある」ということを他者や環境との相互作用で学んでいく時期とされています。
この段階に強いストレスがかかると、思考型と情動型の防衛をとるとされています。
今日はこの思考型について取り上げます。
思考型は、お母さんのお腹の中で強いストレスがかかった時に、あまりにも怖すぎるけれど逃げ場がないため、頭と身体を切り離して、頭にエネルギーを集める防衛をいいます。極端になると、頭から抜け出て「自分のことを上から見ていた」というような離脱体験になることもあります。
この防衛を使っているときは、『考えていることが「自分」』という認識になり、思考に没入し、情動を感じることが難しくなります。
アレクサンダー=ローウェン著「からだは嘘をつかない うつ・不安・失感情、〈からだ〉からのアプローチ」107ページ には、
ある意味、分裂質の人は十分に存在しないことで生き延びます。命から自分を切り離して頭のなかに引きこもり、深い感情のすべてから自分を乖離します。(中略)感情との乖離は命の中断に等しく、分裂質は生きないことを条件に生き延びていると言えるでしょう。
と書かれており、ローウェンのいう分裂質は、ボディナミックでは思考型に相当するため、思考型の人も同様の状態と考えられます。
思考型の防衛をよく使っている方にこの説明をすると、「わかりますー」と深く頷いてもらえますが、逆に情動型の防衛を使っている方にはピンとこないことが多いです。
ここで、LEDEXという企業のホームページに掲載されていた、田中太平先生(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院NICUスーパーバイザー)の記事をご紹介したいと思います。超低出生体重児のケアについてとともに、超低出生体重児として出生すること自体が自閉スペクトラム症のハイリスクと書かれているところを、引用します。
出生後のNICUの環境は不快な刺激に満ちています。アラーム音や過剰な光による不快な聴覚・視覚刺激、採血や気管吸引などの処置に伴う痛み刺激、羊水内と異なる不安定な触感や重力感覚、人工呼吸器から離脱できても呼吸中枢の未熟性による無呼吸発作の反復など、赤ちゃんの側から見ると、どれも虐待と言っても過言ではないような、苦痛を伴う過酷な毎日とも言えます。
こうした不快な刺激から身を守るためには、外部からの刺激をシャットアウトして内に籠もる、逃避に走ることが手っ取り早い生体防御反応となります。「外界からの不快な刺激」や「他者との関係性」を断つことが、将来的に他者とのコミュニケーションの苦手さにつながり、過剰な刺激に対してどうしていいかわからずにあがくことが「セルフコントロールの苦手さ」ひいは「なだにくさ」「泣き止みにくさ」、成長してからの落ち着きのなさ、ADHDにもつながってくるのではないかと思われます。
この部分を読んで、膝を打ちました。
保育器に入らないと命を繋ぐことができない赤ちゃんは、医療者が昼夜を問わず心血を注いで治療をしていたとしても、お母さんのお腹の中とは比較にならないくらい過酷な環境に置かれている中で成長していくことになります。不快な刺激から身を守る防御反応があってこそ生き延びることができていると言えるでしょう。新生児科のドクターが体験的に感じてこられたことが、ボディナミックの思考型の防衛の持ち方と似ていたことにとても驚きと同時に納得しました。
また、早産児、低出生体重児が後に自閉スペクトラム症と診断される確率が男女ともに高くなるという研究報告もあります。
Crump C, Sundquist J, Sundquist K. Preterm or Early Term Birth and Risk of Autism. Pediatrics. 2021 Sep;148(3):e2020032300. doi: 10.1542/peds.2020-032300. Epub 2021 Aug 11. PMID: 34380775; PMCID: PMC9809198.
自閉スペクトラム症の子たちのユニークな思考スタイルと、感情を感じ取ること、対人交流の難しさも、この防衛が関係しているのではないかと考えてきました。
10数名の方の、存在の段階で活性化される筋膜に触れてみたところ、身体の中にいる感じがして安心するという人もいれば、身体を感じるのが怖いという人もいました。
自閉スペクトラム症の方は身体を感じる心地悪さを話されていました。
思考型の防衛を強く使って生き延びてきた子に対して、存在の段階で活性化される筋肉や筋膜(帽状腱膜と足底腱膜)に触れながら、「この世界に存在する権利があり、みんなから歓迎されている」ということを改めて伝えると、何かしら良い変化が起こせるのではないかと思っています。過酷な環境で生き延びてきたとても生命力の強い子たちがより生きやすくなるためにサポートできたらいいなと願っています。